【感想】罪の蜜
2011.11.13 Sunday | category:小説
JUGEMテーマ:小説全般
芸術一家に生まれながらも才能を持たない自身に強いコンプレックスを抱く雄介。
バイト先である予備校で出会った生徒、水谷の持つ天才的才能に嫉妬を覚えながらも「良い講師」として彼に接していた雄介だが、
ある日水谷から好きだと告白され…。
全てを持ち合わせた人間から愛される優越感、与えられる快感、
そして心に秘めた罪悪感が雄介を狂わせる。
蝶毒をきっかけにすっかりファンになってしまいました、丸木文華先生ですが、BL作品を読むのはこれが初めてでした。
以前『義兄 明治艶曼荼羅』を紹介しましたが、今回のイラストも義兄と同じく笠井あゆみ先生が担当しています。
いやあ美しい…。
出版社の公式ページの方にインタビューが掲載されていたのですが、丸木先生は谷崎潤一郎がお好きなのですね。一人納得してしまいました。
※ネタバレを含みます。
途中までは、今回はわりとノーマルなのかなあ、なんて思いながら読んでいたのですが…そんなことはありませんでした。丸木先生ワールド全開です。
水谷に対して感じる羨望、嫉妬心、コンプレックス。とても憎いはずの彼から告白されて感じた優越感。
雄介の持つ感情は、人間なら誰でも持っているものなんじゃないかと思いました。
もちろん雄介程ではないけれど、自分が欲しくて堪らないものを簡単に手にしてしまう人はやっぱり羨ましいし、心のどこかで憎いと思ったりもする。
そして何でも持っていて、皆から好かれるような人に求められれば優越感や快感も覚える。
本来ならば心の奥底にほんの少し感じる程度の感情に、彼の境遇や水谷の存在が重なって、それが大きく絶対的なものになってしまったのではないかなあ、と思います。
水谷が講師のバイトを始めてからの二人の関係がすごく好きです。
二人で愛し合うような行為、でも結局はお互いに自分のことしか考えていないから、相手のちょっとした言動に大きく動かされてしまう。
なんだかんだで絆され、自分の全てを曝け出す覚悟で罪を告白した雄介に対し、それを受け入れた水谷。
それだけ雄介のことが好きなのかな、と思ったのですが…。
実際はそんなのどうでもよかったんでしょうね。彼が罪を告白してきたときに水谷が考えていたのは「これで全てが手に入る」ということ。その内容にはほとんど興味がなかったんじゃないかと思います。
そして何よりちょっとしたミステリー要素がこの作品の魅力だと思います!
雄介と恋人のような、家族のような、関係を持つ愛子。彼女の存在が彼ら二人にどう影響を与えるか、また、物語の途中に登場する女目線の文章。これらが絶妙のタイミングではさまっているんですよね!
ある意味この二人の運命は愛子が握っていたと言っても過言じゃないと思うなあ。場合によっては雄介は愛子に対して強い依存を見せていたかもしれない。
水谷に依存しきったとしても、家族と愛子は別枠でずーっとひっかかり続けるのでしょう。
「義兄」と比べ、プレイ的な意味でのアブノーマルさはありません。
個人的にはこちらの作品の方が好きです!(そもそもNLとBLなのでベクトルが違うのかもしれませんが…)
全体的に綺麗な文体であるのにも関わらず、重く歪んだ世界をうまく表現できるのはさすが丸木先生、ですね!
好き嫌いなく読める作品だと思います。